2025年2月。

今日は受験を終えたはずの5人が塾にやってくる日だ。先週から始まっている「中学準備講座」、今日が2回目だ。受験学習・授業は終えたが週に一度英語を習いに来る。毎年、ほぼその年の受験を終えた子たちは申し込んでくる。こちらとしては教室事情・スタッフ事情から毎週日曜しか授業はできないから、本当は複雑と言えば複雑なんだ。彼らを親御さんのもとにようやく返せたと思っているから。中学生活が始まるわずかな時間、普通の小学生に戻って普通の家族生活を送ればいいと思っているから。また、この講座には去年の3月まで個別指導で通っていたリョウコも申し込んできた。いつも女子一人だったアキに相棒が出来たようでちょうどいい。英語入門だけ総勢6名。

「君ら受験終わったのに、よくまた塾通うよね。この一年、あんなに塾にいたのにね」

笑いながらこちらから投げかける。

「いやぁ…そうなんだけど結局時間を持て余しちゃうんだよねー」

いつものようにオウガが陽気に答える。いつもこちらからの問いかけに最初に反応してくれる。

「それになんかもう、すでに懐かしい。塾が」

マコトが続く。

後でレオンとアキが笑いながら頷く。

「そうなの?そんな感じなの?」

シュンサクの方を見て大げさな声で聞いてみる。ゆっくり頷くシュンサク。そしてそこでリョウコが言う。

「でもさー、英語って中学でいっぱいやるんでしょ?だったら今やらなくても良くない?」

「じゃあ、なんでお前さん今ここにいるんだよ!」

みんなが笑いながら口々に「あーやっぱ塾いいよねー」「週イチくらいならちょうどいいのにねー」「やっぱみっしぇるのツッコミ冴えてるよねー」と軽口をたたく。

その後も授業の本筋に入るまで雑談めいたことを話しながら笑い合った。先月までと比べ実にのんびりした雰囲気。外も風さえなければ暖かくちょっぴり春を思わせる。

(こういうのなんて言うんだっけな…。そう「牧歌的」っていうんだな。「のどか」といってもいいな。あ、【pastorale】って楽譜でむかし見たっけな。まさに「のどかに」って意味だったな。うん、そんな表現記号あったな)

肩の力を抜いて笑い合うこの子たちをぼんやり見ながらそう思ったんだ。

ただ…その傍らで去年の「いまごろ」も思い出した。彼らを受験生にするために避けて通れなかったちょうど一年前のあの日々。およそ【pastorale】なんて言っていられない、彼ら彼女らを「いっちょまえ」にするためのあの日々。

それを一瞬、思い出したんだ。