2024年2月。いよいよこの年の受験学年授業が始まる。もうすぐ新6年生がやってくる。その日、あることを今年の指針にしようと考えながら彼らを待った。

2月初旬にしては暖かな日、一昨日積もった雪は日陰でまだ凍えたままだ。夕方から少しずつ広がった、厚い雲も手伝って暗く季節を思わせる寒さが訪れた。珍しく教室の前には渋滞中の車両がゆっくり、つっかえながら並んでいる。

「今年の新6年生たちも12歳になる子たちか…」

あたり前のことだけど毎年の中学受験生たちは12歳の誕生日を迎える子たちばかりだ。6年生なのだから。ただ、指導している自分は今年もひとつ年をとる。毎年受験生たちとの年齢差は広がるばかりなんだ。ひとつ年が離れた分増えた自分の経験を早めに要求すると子どもたちが反応できず苦しむことがある。適したタイミングは存在するがそれを計るのが難しい。毎年それを気を付けている。この時点で今年の新6年生たちは4人。一番早くこの塾に通い始めたアキは4年生の秋から。一番の新顔はオウガで入塾したのは昨年の11月だ。マコトやシュンサクも入塾の時期が違ってカリキュラムの消化量も違う。難しいのはその「最大公約数」をとることだった。

「こんにちはー」

その日、最初に来たのは珍しくオウガ。続いて一番に来ることが多かったマコトが、そしてアキがそれぞれ2月の風に吹かれながら入ってくる。

「はい、こんにちは」

二人のあいさつに答えながら時計にちらりと目をやる。4時55分。いつも到着がぎりぎりのシュンサクが来れば全員そろうことになる。外はもう真っ暗だ。

一分でも早く授業を始めたい。いや、でも焦るな。今日から確かに新6年生の授業が始まるが急には飛ばせない。まだその耐性は…まだないんだ。ゆっくり、じっくりスタートはやるんだ。そう、楽譜の指示記号で言えば[Largo]。ただ「ゆっくり」やるんじゃない。「ゆっくり、表情豊かに」が正しい意味だ。入塾のタイミングも得手不得手も何もかもが違う彼ら彼女らを一年後「悔いなく」送り出すために、今じっくりやろうと決めていたんだ。「じっくりと、ゆっくりと」、そして「必要なことがしっかり伝わる」ようにね。

そして地域の防災無線が5時を伝えるチャイムの音が鳴る。丁度コンサートの開演前、「スタンバイOK」のブザーが鳴るように。その時シュンサクがドアを開けて今年の受験生たちが揃った。

さぁ始まる。2025年入試本番という最終楽章に向けて。