「あ!みっしぇるいるよ!ほらほら、フユト!みっしぇるいるよ!」

フユトのお母さんの声でこちらも気づいた。多くの受験生とその保護者が振り替える。あぁ…。自分がみっしぇるであることがばれる。まぁいいか。

ん?あのフユトの表情が硬い。そうだよね、本番当日の朝だもの。

彼らの初陣、SN中。試験会場前、校門辺り。

「おう、フユト。昨日は眠れたか?」

「…うん。眠れた…と思う」

これはもしかして緊張?やっぱり緊張するんだね。いつも人を喰ったようなフユトでも。初めてだもんな。

ちょっと安心した。「ちゃんと緊張」するんだね。

技術的なアドバイスをちょこちょこと。でも頭に入ってる?

いいよいいよ、キミのデビュー戦だもの。存分に緊張して。

そして駆けつけてくれたナオ先生に託す。やっぱりうまいな、ほぐすの。ほら、もういつも通りのフユト。

「ね、みっしぇるさぁ。試験始まるまで何してたらいい?」

「いつも通り漢字と語句、社会・理科の知識分野を確認してるといいよ」

「えー…眠くなりそうだなぁ。やんなきゃダメ?」

(お前が先に聞いたんだろ…)

自分が思うより前にフユトのお母さんが彼のリュックを強めにドン!

よし。いつも通りに戻ったね。さぁ言って来い。激励がわりの握手。

お母さんを引き連れて会場に歩き出した時。

「ねぇ、みっしぇるさ。今日入試終わった後、また授業だよね。疲れたら休んでいい?」

またもお母さんの強めのドンを食らうフユト。修学旅行の時くらいしか休んだことないくせに。

「わかった。じゃぁ使い果たしてきなよ」

にこっと笑って会場入り口へ。

フユトがきょろきょろ。お母さんもきょろきょろ。

入口発見。あとは一直線。フユトの背中とリュックが吸い込まれている。

 

その10分後、ナツキも到着。

自分らを見つけるまで、きょろきょろ。見つけたら、一直線。

この子はいつも通り。「ようやく入試が体験できる」という気持ちかな。

ナツキともひとしきり会話を交わし、握手して送り出す。

ナツキもきょろきょろ。会場入り口に入る前に少し振り返って手を上げるナツキ。そしてナツキも吸い込まれていく。

よく見たら他の受験生もきょろきょろ。そして会場へ。

みんな初めての中学入試。

どうか自分の力を出し切れますように。

そんなことを思いながら自分もきょろきょろ。