「昨日の午後の分は…ダメでした。午前の分は合格貰ってたんでそれで本当にそれは助かりました。」

珍しくフユトのお母さんから直電。1/11の夕方少し前

。1/10午前が第一志望のS中で午後が第二志望のK校。もともとK中が彼の目標校だったのだけど、秋に第一志望校を入れ替えた。本人にしてみればS中は「チャレンジ校」という認識だったようだ。本人の思考、それとS中の問題との相性を見て「いけると思うけどどうする?」と背中を押してみたら志望順位が入れ替わったんだ。そして今日もK中の受験を終えたところだった。

「K中…そうでしたか…。悔しいなぁ。…ご本人のご様子は?」

「さっきまで落ち込んでましたけど…。『塾行くから』って今腹ごしらえしています。ふふっ…落ち込んでもおなかはすくんですね」

フユトのお母さんの「ふふっ」になんとなくこちらが救われた気がした。

「今日のK中の手ごたえは?本人何か言っていましたか」

「『やっぱり算数が難しかった』って言ってましたね」

そうか、やっぱり。K中の傾向とフユトの得意分野は少し違うんだ。最後の最後まで強化・補完を目指したけど時間が足りなかったんだ。あとちょっと、あと一歩なんだけどな。それでもS中には対応できて結果もついてきているから間違いではないのだけど。

「今日本人と少し話してみます。今日の回でクリアできていればいいんですけど…」

そこまで話して電話を終えた。彼はどんな顔でやってくるのだろうか。

現れたフユトはいたって普段通りだった。いつものように入口のガラス戸からこっちを伺い、こちらが気づいて目をやるとニヤッと笑って入ってくる。いつも通りだ。ただ、その日は彼が一番乗りだったのを除けば。

「おう。連日お疲れさん。」

「本当、疲れるね。入試って。でも『受験してる』って実感する」

「夏くらいから言ってたろ?『本番こんなもんじゃない』って」

「いや!夏期講習の方が大変だったよ!」

ふだん通りのフユト。だと思ってたんだ。その時までは。

「フユトさ、K中の入試…」

自分の言葉を遮るようにフユトは言ったんだ。

「あぁ…K中ね…。みっしぇる、なんか…ごめんね。過去問とかやってくれたのに。ごめんね。」

「…ん?」

「今日の回も難しかったから自信ない。…でも受かるまで行く。ダメでもまた行くよ。ごめんね。」

…そんなふうに「ごめんね」なんて言うなよ。なんて返せばいいかわからなくなっちゃうじゃん。「ごめんね」…なんてやめてよ…。何も言えなくなるんだから、こっちは…。

「みっしぇる、今日の科目は国語と理科でいいんだよね?」

その一言でもう終わりだった、その話題は。精一杯の気力で「そう。」って言うと、フユトはさっさと自分の席に座って教材を用意し始めたようだった。

いつの間にか自分のためだけじゃなく、「誰かといっしょに」受験していることを覚えたフユト。きっと、他の2人もそうなのだろう。いや、他の塾の、同じく目標をもつ子たちもそうなんだ。

忘れてた。でもそうだった。

自分が「がんばった」って思える人間は周りのがんばりも見えてくるし、相手のことが思いやれるんだよー

みんなそこまで来てたんだね。フユト、君も。

でも。でもだな。もう「ごめんね」は言わせたくない。

「なぁ、フユトぉ。もう一回【場合の数】見ときな。なんなら今やるか?」

「え…あ…じゃぁ、嫌だけどやる」

変わっていないようで、成長している。そんなフユトの受験だったんだ。