2025年、夏。8月下旬。近くでミンミンゼミが元気に鳴いている。

6年生の授業が始まる15分前。外に出て生徒たちを出迎えているときにマコトがひょっこり現れた。

「あれ?」

一瞬混乱する。マコトは今日授業日だっけ?あぁ6年だもんな…ん?でもまてよ…?あれ?卒業したよな?

夏の暑さでどうかしちゃったのかな…ワタシ…とも思ったが、なんてことはない。6年生弟の送迎だ。それに付いてきただけだった。少し頭がパニックになるが往々にして兄弟生の場合、特にとしごの兄弟がいるとたまに分からなくなる。

頭の中で今年と去年が、今日と昨日が、兄と弟が交錯する自分の脇を通って6年生たちが次々と教室に入っていく。ようやく「今」に頭が追いついた自分がマコトに尋ねる。冗談めかしに。

「兄貴も6年生の講習受けていく?」

「結構です。間に合ってます。」

笑いながらマコトが答える。

「どう?今年の夏休みは?楽しい?」

「めちゃくちゃ楽しいです!学校からの課題も多いけど。講習もあったよ」

卒業生の「今の学校楽しいです」にいつも救われる思いがする。それだけ6年生の一年間は大変な思いをさせていると思っている。彼らが望んでやっているとしても少しだけ葛藤があるのが本音だ。だから是が非でも受からせたくなるんだけど。

「部活は?結局楽器はなにやっているの?」

吹奏楽部に入ったことは5月にみんなで遊びに来た時にも、また弟経由でも聞いていた。でもパートまでは知らなかった。

「バスクラリネット。いつもピアノ椅子に座れるから得なんだよね~」

そうか…?とも思ったが本人が思うのならそうなのだろう。

「リード代、大変だね。」

「そこは…親からもらうから」

ははは、そりゃそうだ。マコトと笑い合っている間も元気なミンミンゼミはかしましい声で主張している。よく聞くと遠くでもミンミンゼミの声がする。遠い分、少し声が低く聞こえる。なぜか心地よい和音のようにも聞こえる。マコトのバスクラリネットも中音・高音楽器の音色をそんな風に支えているのだろうか。

去年とは少し違う穏やかで優しい日々を送れているようだ。今年の夏は【ジェンティーレ】な日々。

じゃぁまた来るね。そう言い残して母の運転する車に戻るマコト。その後ろ姿を見ながら思ったんだ。

-だから去年言ったじゃん。「来年の夏はさ、今の自分の志望校が母校になって、その学校で楽しい充実した夏になるはずなんだ。可能性100%じゃないよ、120だ。」って。

今年ももうすぐ夏が終わる。自分にとって夏は【ジェンティーレ】とは程遠い。卒業生たちの夏はどうなんだろう。アキの、シュンサクの、オウガ、レオンの顔が、それ以前の卒業生たちの顔が浮かぶ。できれば毎年がそれであってほしいな。そんなことを思いながら今年の6年生、受験生たちに向き合う。始業の時間を迎え声を張って言う。

「さぁ、やろう!」

急に自分も楽器を吹きたくなったのは内緒だけど。